| チベット自治区は同じ中国国内でありながら外国人が入るには許可証をとってツアーという形でしか旅行は認められていない。ツアーの値段は2000元(3万円)以上することもある。空路でラサに入るには当然許可証込みの料金を払うしかないのだが、陸路であればチベット自治区への途中にある検問をすり抜けることができれば許可証無しで、俗に言う闇ルートでチベットへ入れる。陸路でチベットを目指す旅行者の多くが、この闇ルートでラサを目指す。というのも、一度チベットへ入ってしまえば、許可証とやらをチェックされることもなく、自由に旅行ができ、チベット自治区から戻ることも、ネパールへ出国することも全く問題ないからだ。
陸路で中国国内からチベット自治区のラサに入るには、大きく4通りの道がある。東の雲南省から入る場合には、川蔵公路北と川蔵公路南の2本が香格里拉や理塘あたりからラサへ通じている。北からはゴルムドから青蔵公路という道が山脈を越えて南のラサへ通じていて、もう1つ、西からはウィグル自治区からアリ経由の道がある。このうち、バスなどが定期的に走っているのは、ゴルムドからの青蔵公路のみで、それ以外の道は、トラックなどのヒッチなどで行くしかないような道。ルート的には、ラオスから北上して雲南省にいた訳なので、雲南から西へ川蔵公路を通ってチベット自治区に入るのが直線距離では近いのだが、何せトラックのヒッチハイクで2週間くらいはかかるという道で、検問も厳しいらしい。さらに途中の町は非開放都市がほとんどなので、宿に泊まるのも相当大変だという。多くの旅行者がトライしては戻ってくるという話を聞いて、こりゃちょっと大変そう。。。とヒヨってしまった。ちょうど、土砂崩れか何かで香格里拉から北上するバスが運行休止になったこともあって、雲南省からは相当遠回りになるのだが、青海省のゴルムドというところまで行って、そこから闇バスなるものを捕まえることにした。
ゴルムドからの青蔵公路は、ラサへの道の中で最もポピュラーな道で、ほとんどの人がここからラサを目指す。中国人のみが乗れる(とされる)バスが多数ゴルムド−ラサを結んでいる。で、闇バスというのは、その中国人専用のバスに乗せてもらって、中国人に成りすまして検問をやり過ごしたり、検問に差し掛かる前にバスを降りて徒歩で検問を避けたりするのだそうだ。それ以外にも闇タクシーや闇ランクルなどもあって、あの手この手でラサへ入ることができるらしい。とは言っても、ここでも成功確立は運。ある人は100%確実って言うし、ある人は五分五分って言うし、2回連続で検問で捕まって罰金を取られた人もいる。そこは運に任せるしかない。まず成都から列車でゴルムドまで向かう。これだけでも相当な距離。成都から蘭州までは列車で24時間、蘭州からゴルムドまではさらに20時間。幸い列車はそんなに混んでいなかったので、成都から蘭州についてすぐゴルムド行きの切符を買うことができた。蘭州を夕方出た列車は翌日の昼までにはゴルムドに着くはずだ。
列車はちょっと遅れて午前11時過ぎにゴルムド駅着。駅を降りるとそこにはラサ行きの闇バス業者の客引きがワンサカいて、客の取り合いが始まる。闇でラサ行くのは違法だし、ゴルムドのある招待所に泊まったりするとその人の名前がチェックされていて、パーミットを取らないでラサへ向かうと、公安に連絡が行くみたいなことも聞いていたので、こんなおおっぴらに駅前で闇バスの客引きがいることがとても意外。
ラサまでは下手をすると50時間以上もかかることもあるらしいので、寝台バスに乗って行きたい。大理であった人の話だと寝台バスで300元だったと行っていたのでまず寝台バスをチェックしたかったのだが、客引きに強引に連れて行かれる。なにやら既に日本人とイスラエル人がラサ行きを待っていて仲間をもう1人募っているというのだ。外人が多いバスで行くと公安にバレ安いんじゃないかと思っていたのでちょっといやな気がしたのだが、日本人がいるのなら情報交換には良いかもしれない。そう思って客引きに連れて行かれたレストランで日本人とイスラエル人の旅行者に会ってみる。
彼らの話では、寝台バスは公安のチェックが厳しいし何よりラサまでの時間がすごくかかるという。その点、彼らの募っているミニ闇バス、というかミニ闇ワゴンは公安にも今まで捕まったことがなく、ラサまでも24時間以内で確実に着くのだという。半分以上眉唾だと思ったが、最初は700元だった値段が500元まで落ちてきたのでこのミニ闇ワゴンにかけてみることにした。他のチョイスを考えないで決めてしまうのも不安だったが今すぐ出発するらしいので時間のロスもないし。それでいきなりラサに向けて出発。まだゴルムドについて2時間も経っていない。
後部座席が3列になっているワゴンには、日本人2人、イスラエル人1人、それから中国人4人、ドライバー2人とその助手みたいなガキが1人の全部で10人。その他にバックパックなども入っているので車内はぎゅうぎゅう。これからラサまで、無事に検問を通過できるのか、それとも捕まってゴルムドまで強制送還されてしまうのか・・
ゴルムドをでて20分も経たないうちに最初の検問が見えてきた。道路に門のようなものが建っていて、検査なんとかと字が書いてあり、目の前には公安の車も何台か停まっている。我々3人はいよいよ検問だ、と思って緊張する。。が、ワゴンは全く止まることなく通過。へっっと我々は呆気にとられる。検問なし? 別に我々の車だけが特別に検問なし、なわけではなく、検問所はあるものの検問自体をやっていない様子だった。ミニ闇ワゴン運転手が検問のあるなしを知っていたかどうかはわからないし、もともとここの検問自体がずっとやっていないのかもしれない。でもいずれにしても無事一つ目の検問は突破。幸先がいいぞ。バスはひたすらラサを目指して南下する。ラサまではゴルムドから約1200キロ。明日の昼過ぎにはラサに着くだろうか。。まだまだ日は高い。すし詰めの車内からみる景色はどこまでも続く砂漠。寒いと思って厚着をしていたのだが汗がでてくるくらい日差しが強い。。
数時間も経つと既に標高は4500メートルの大地。ここからラサまでは基本的に4500メートル以上の高地を走り、その内5000メートル以上の峠を2つ越えるのだ。多くの人が高山病で悩まされるらしい。幸い今のところ高山病とは無縁。このまま峠も越せるのだろうか。車窓は相変わらずの砂漠だが、遠くには山頂に雪を湛えた山脈が連なっているのが見える。あれはヒマラヤ?チベットへの期待が高まる。
ラサへ向かう青蔵公路は基本的に全部舗装済み。よくもまぁこんな何も大地に延々と道を作ったものだ。道路の沿線にはラサまでの鉄道路線ができていて、物資を運んでいるのか時々貨物列車が通っている。2005年までにはラサまでの鉄道が全線開通という話を聞いたので、その頃には今よりももっと沢山の観光客がどっと押し寄せるのだろう。青蔵公路の交通量は多い。ほとんどがトラックで、スピードの出るミニバスはどんどんトラックを抜いていくのだが、沢山のトラックの事故を見かける。側道でぶつかっている車、横転しているトラック、そして正面衝突しているトラックも見る。なんとか我々の車は事故りませんように。。。と願うしかない。
夜8時近くなってくると日が落ちてくる。天気は快晴なので綺麗な夕日が見えるのかと思っていたのだが、ここら辺は山に囲まれているため、日が落ちてきたなぁと思っていたら突然暗くなる。そして、暗くなったと思っても数時間の間遠くの方がずっと明るいままだ。そして、日が落ちるといきなり寒くなる。というか、寒いとか言っているほどの寒さではない。夜が更けるにつれ寒さは酷くなる一方で、厚手のアンダーウェアにフリース、レインジャケットなど持っている衣服はすべて着て、さらにブランケットをかけているのにそれでも震えがとまらない。だいたい、隙間風が入りすぎ。ほとんどオープンカー状態で冷たい風が入ってくるので、車に乗っているという感覚が全くない。そして、寒さがだんだん頭痛に変わってくる。高山病が始まったみたいだ。時間が経つにつれて頭痛が激しくなってくる。とても痛い。そして息が苦しい。意識的に呼吸をしていないと頭が痛くてかなわない。そしてやたらと喉が渇く。もう夜中の1時を回っているので眠い。眠いのに苦しく眠れない。
ミニ闇ワゴンは途中で何度も工事や事故に遭遇して、足止めを食いながらもなんとか長時間の立ち往生には遭わず順調に進んでいるみたいだ。ほとんど眠れずにバスの中で寒さと頭痛と格闘。。この車は、さすがワゴンだけあって事故や工事があっても側道にでて迂回したりできるので、長時間待たされることはない。これが寝台バスやトラックだったら4,5時間は待たされるのだろう。やっぱりこのミニ闇ワゴンにして良かった。。。早くラサに着け。。
夜が明け始めたのは朝8時頃。チベットはほとんどインドやネパールなど日本と3時間以上時差がある国と接しているのに、時間は北京時間なので、夜明けが遅い。ラサまでは後100キロくらいだ。高度が徐々に下がってくる。ずーっと4500メートルから5000メートルくらいのところを走ってきたがもう3900メートル近い。ラサの標高は3700くらいなので、ラサが近づいている証拠だ。そしてラサまで後30分というときに、突然、目の前に車が沢山現れる。。。。。公安だ!ラサの直前で初めての検問。公安が近づいてくるのが見える。後部座席に座っているイスラエル人が頭を隠す。僕は前の方でめがねを外して中国人を装う。。。頼む!ここで見つかってゴルムドまで戻ることになったら最悪。また今まで来た道を延々と戻らなくてはならないのだ。なんとかやりすごしてくれ。。。。と心の中で思う。。 が・・・・ 運転手が連れて行かれる。。。そしてなにやらもう1人のドライバーが携帯で誰かと大声で話始める。ばれたのか?ばれたんだな?そうなんだな?。最悪。。。。運転手は30分以上立っても戻ってこない。賄賂の交渉でもしているのか。。その間もう一回公安が車に近づいてきて車内を見回す。やっぱりばれたのか。。。終わりだ。。。ゴルムドまで戻るのか、罰金か。。痛い頭がますます痛くなる。
と、運転手が戻ってくる。何も言わない。こちらから聞いてみる。どうした?どうした?すると、メイヨウ、といって車が走り始める。へ?また呆気にとられた。何が起こったのかは全くわからないのだが、どうやらこのままラサに向かっていいらしい。原因はさっぱりわからないけど。。。兎に角、兎に角、ラサまで行けるのだ。30分もしないうちにバスはラサのバスターミナルに到着。無事外人3人はラサの地を踏んだのだ。やったー。みんなで喜ぶ、と同時に疲れがどっと出てくる。早くホテルへ、と値段も気にせずタクシーに乗り込みラサの旧市街の安宿街へと向かった。
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